母さん助けて日記

母さん助けて詐欺のない世界を祈りながら綴る日記+α

20140930

昼前にお腹が空いて、この間上司にタイ土産でもらったマンゴー味のお菓子の口を開けてみたら、びっくりするほど強いマンゴーの香りがした。鼻の粘膜に染み付くようなあまりのトロピカル臭に、そういえばそんなに食べる機会のない物だから忘れていたけどわたしマンゴー味好きじゃなかったな、ということを思い出し、そのまま引き出しに戻した。
午後になっても夜になっても、引き出しを開け閉めするたびにマンゴーの香りがして、ちょっと参った。
 
電車で帰る途中、本を読む集中力が切れて顔を上げると、制服姿の二人の女子中学生が、わたしの座席の前に立っていた。一人が眼鏡のおさげで、もう一人がボブ。テニスラケットを背負った二人は部活帰りなのかひどく疲れた様子で、しばらくそれぞれぐったりと黙っていたが、そのうちボブのほうが口を開いた。
 
「ねえ好きな果物教えて」
「え、マンゴーと、メロン」
「何で?」
「高級感があるから」
「マンゴー、うちのお兄ちゃんも好き」
「へえ」
「おいしいよね」
「うん、でも季節じゃないと高い」
「そうかも」
 
会話はそれで終わりだった。「季節じゃないと高い」のところだけやけに早口で、母親か誰かの口真似なのかもしれないと思った。
 
わたしも昔、部活や遊びでくたくたになった帰り道で、こういう意味のないことを、友人と言い交わしたことがあったと思う。今でもある。目についた看板や広告の文字をただ読み上げて、つまらないことをぽつぽつ言って、言ったそばから忘れて、でもお互い全然平気でいるようなことがある。
 
ボブの子が、両手でつかまったつり革に体重をかけて上体をゆらゆらさせるたびに、肩に背負っているテニスラケットの面が、バナナみたいな黄色の別珍の袋ごしにこんこんとわたしの膝を打っていた。膝を引き寄せようかとも思ったけど、何となくそのままにした。
 
二人とは同じ駅で降りたがすぐに姿を見失った。
マンゴーっていうのは、普通の家庭の食卓にも結構のぼるものなのか、二人の家が特別なのか、考えたけどよく分からなかった。わたしはアレルギーで生の果物が一切食べられない。マンゴーも、本物は一度も食べたことがない。
 
家に着いて一旦荷物をおろし、家賃を渡しに階下の大家を訪ねると、大きな梨をひとつもらった。わたしはずっと、果物アレルギーであることを言いそびれている。
20世紀だか21世紀だかっていう、新潟の梨とのこと。皮へ鼻を寄せてみると、ガリガリ君梨味みたいなにおいがした。
 
食べるあてのない梨は、とりあえず冷凍庫にしまった。冷凍うどんと冷凍餃子の袋と保冷剤が散らばる間に唐突に梨が置かれてあるのは何だか面白くて、その夜、ハイボールに入れる氷を取り出すたびに、しばらく眺めてしまった。