母さん助けて日記

母さん助けて詐欺のない世界を祈りながら綴る日記+α

20181006

部屋のフローリングの上に腹ばいで寝るコツメカワウソの頭を、爪の長い指が撫でる動画を見ていた。額を前から後ろへ撫でる指が、時々小さな耳の上を通る。そのたびにぴこ、と動く耳が、独立した動物のようでいとおしい。耳はぴこぴこ動くのに、気持ちよさげに眠っているゴンタくんが目を覚ます気配はない。


テレビの中ではメドベージェフと誰かがテニスをしている。屋内のコートで、ボールを打つ音が反響していて、その上に解説の松岡修造の抑えた声が重なる。


テーブルの上には3万円と、10月始まりのカレンダーと、のど飴とミネラルウォーター、ニキビの薬とコンタクトケースが、見ようによっては静物画っぽい構図で並んでいる。わたしはグレーのTシャツを着て、あとは下着だけ。一日中外にいて汗ばんで気持ち悪いので、脚を自由にしたかった。と、書いているうちにメドベージェフの対戦相手がスーパーショットを打った。


毎日、人生思い通りにならないことの方が多い、というか、思い通りになることなどあるのか、と感じながら過ごしているけど、わたしは今日野外で行われた音楽イベントへ行き、好きなアーティストの演奏をほぼ最前列で観て、友だちと話をして、フランクフルトを食べて、好きなアーティストと写真を撮ってもらった。自分で決めてそうした。

イベントが終わったあと、気持ちはまだ遊びたがっていたけど、体のことを考えてすぐに帰った。自分の体の調子を把握できるようになったのは、ここ数年のことで、把握した上で何をやって何をやめておくか判断できるようになったのは、つい最近のことだ。今ソファで、無理をしないでよかったと思っている。いい選択をしたあとは気持ちがよくなる。いい選択を重ねるのは、それがたとえ些細なことでも、自分をかたちづくるために重要なことだと思う。


イベントの最中に、祖母から二度電話がかかってきた。母ともめて、連絡がとれなくなってしまったので代わりに連絡をとってくれという電話だ。母はわたしからの連絡も拒否していて、全く連絡がつかない。祖母にはそのことも伝えているのだが、ここ数日で同じ電話をもう10回以上受けていた。祖母は、不安で具合が悪くなりそうだと言う。わたしは内心、そんなこと知らない、と思う。直接関係ないことには巻き込まれずに生きていきたい。複雑な愛憎からは距離を置きたい。固定資産税や相続税のことなど、考えたくもない。血の繋がっている人たちと、適度に希薄な関係でいたい。しかしどうあっても何かしらの関係が発生してしまうのが家族だ。家族がいなければ自分はないが、そんな厄介な集団には属したくないという気持ちもある。そういう気分と関係はないだろうけど、わたしは近く離婚する。


そうこうしているうちに1時になるので、そろそろ寝る準備をしようと思う。明日の午前中にはネットで買ったスカートとニットと椅子が届く。午後には美容院で髪を染める。色合いは美容師にまかせる。もう10年、髪のことをすべて預けてきた人だ。わたしは彼女を信頼することを選び、彼女は毎回わたしの髪について様々なことを選んでいる。


みんな、毎日数え切れないほどの事柄について、他のすべての選択肢を捨ててひとつを選ぶことを繰り返している。捨てているものの多さを考えて、叫びだしたくなることもあるし、開放されたような気になることもある。今はたまたま、開放されたような気分だ。


1時を過ぎてしまった。メドベージェフの試合も終わった。ストレート勝ちだ。これから化粧を落とし歯を磨きシャワーを浴び、睡眠薬を飲んでベッドに入る。できれば朝まで眠りたい。