母さん助けて日記

母さん助けて詐欺のない世界を祈りながら綴る日記+α

20181011

以前、通勤電車がなかなかいいものだとここに書いたが、何回かの乗換の途中、快適でない区間がある。尻に触れているのが人の手なのか鞄か何かなのか判断がつかないし、それ以前に四方を人に囲まれ、顎を上げ気味に呼吸しなければならなかったり。今朝、尻の左側に何か当たっていて、これは人の手だな、と確信しキッと振り返ったら女性の傘の持ち手が当たっていただけだった。女性は申し訳なさそうな顔で、すいません、と傘を引っ込めた。わたしも謝った。


乗り換えて乗り換えて、最後に乗る電車はさほど混んでいない。

目の前に座る女性が、膝に女の子を乗せ、絵本を見せていた。読み聞かせはしていなかった。一定の時間を置いて、ぺらり、ぺらり、とページをめくっていた。女の子は「まだめくらないで」とぐずることもなく、黙って絵本に視線をやっていた。3、4歳くらいに見えた。文字のない絵本だったのかもしれない。


眉が八の字だった。機嫌が悪そうな様子ではなかったので、生まれつきそういう風に生えているのだろう。ぱっちりした二重の目がどこか眠そうに見えるのはそのせいなのか、実際に眠いのか、分からなかった。上品な紺色のワンピースを着て、靴下は水色。白とピンクの靴は座席の下に揃えてあった。髪が細く、くせ毛だった。


母親はダイヤで縁取られた時計、左手の薬指には同じくダイヤがちりばめられた指輪、右手の薬指には金の指輪をしていた。かたちのいいシャツからも裕福なのは明らかだったが、暗い茶色に染められた髪の毛は女の子と同じようにうねって、細い髪がところどころ飛び出たままで、それがかえって良く見えた。


女の子がわたしの手元にやっているのに気付き、顔を見るとすぐ目をそらされた。子どもに好かれないのは自覚しているのでさして傷つかなかったが、ではなぜ女の子がこちらを見ているのか、と考えスマホのケースに貼られたパンダのシールを見ているのだと思い当たる。わたしはパンダがよく見えるようにスマホを持つ手を少しずらした。そっと女の子の顔を覗き見ると、もうこちらを見てはいなかった。


途中、どっと人が乗り込んでくる駅がある。停車すると、いらだちがスーツを着て歩いているみたいな男性が辺りかまわず体をぶつけて車両の奥へ進んで行き、押されて母娘は視界から消えた。もうちょっと見ていたかった、と思った。


わたしの降りる駅に着き、母娘が座っていた座席に目をやると、二人はもう降りてかわりにくせ毛の男性が座っていて、くせ毛に縁がある日だと思った。世のくせ毛の人たちは今日の湿気を恨んだかもしれないけど、うねる髪はそれぞれが飼っている生き物みたいで、かわいかった。もしも周りにくせ毛で悩んでいる女の子がいたら、素敵だからストレートパーマなんてかけなくていいよと余計なことを言ってしまいそうだから、そういう子がいなくてよかったとも思った。